画像はBMJ Case Rep. 2009; 2009: bcr06.2008.0317より
前回の美容院脳卒中症候群、沢山閲覧していただけて、本当にありがとうございます!
美容院脳卒中症候群と日本語で検索すると、大抵スタンダール症候群という言葉がついてきます。
芸術作品の美しさに、心を奪われた事ありますか…??
1989年にイタリアの精神科医Graziella Magheriniによって最初に報告された、フランスの作家、マリーアンリベイル(スタンダール)にちなんで名付けられました。
スタンダールは、1817年1月22日、ミケランジェロ、ダンテ、ガリレイなどが眠るフィレンツェの教会への訪問し、ジョットのフレスコ壁画をみてこう述べています。
『2019年 イタリア・フレスコ画の旅・パドヴァ(スクロヴェーニ礼拝堂とジョット派のフレスコ画)』パドヴァ(イタリア)の旅行記・ブログ by ken-kenさん【フォートラベル】 (4travel.jp)より引用強烈な感情、憂鬱、そして大きな喜びの状態に至り、頻脈、倦怠感、脱力感、そして差し迫った失神を伴うエクスタシーで最高潮に達した、、、んだとか
(Stendhal: Rome, Naples et Florence. Paris, Éditions Delaunay, 1826, vol 2, p 102…これは読んでません笑)
Magheriniの報告をまとめると(1977年から86年にかけて106人)
・突然発症で2-8日続く
・66%が思考障害、29%が情動障害、5%がパニック発作を伴う不安障害を特徴とする。
・疎外感、強迫性障害、発汗、脱力感、頻脈、胸痛、錯乱、不安などを呈する。
・中には興奮して芸術作品を破壊しようとする可能性がある。
・イタリア人、北米人、およびアジア人は通常は発症しない。
・一人暮らしで、古典的または宗教的な学歴を持っている人が発症する傾向がある。
原文はイタリア語なので読めていないのですが、他の英語文献Eur Neurol 2014;71:296-298にまとめてあります。
なんと、ある種の不気味さからかホラー映画になってデビューしてました
スタンダール症候群になるのは、なにもフィレンツェの教会だけではないようです。
オランダの画家フェルメールが書いたデルフトの眺望という作品です。
ただのデジタルデータなのですがめちゃくちゃ美しいですね(語彙力)
ハーグのマウリッツハイス美術館に所蔵されているそうです。
フェルメールといえば、この作品です。
真珠の耳飾りの少女ですね。
私、そごう横浜店で複製画みたような気がします…
さきほどの文献は、作家マルセル・プルーストの話でした。
ある匂いを嗅ぐとその関連した記憶が思い出されることをプルースト効果というのは、紅茶に浸したマドレーヌの匂いから物語が展開していく彼の作品が元です。
喘息や不眠症を治療しようと色々試みて、薬物中毒になり入院したのだとか。(相談相手がバビンスキーだったりします)
傑作(マドレーヌの話の由来)「失われた時を求めて」に登場する作家ベルゴットがこの絵をみたあと尿毒症・脳卒中になり死に至ったとえがかれています。モデルがいるそうです。
プルースト自身、心身症を患っていたと言われており、これもスタンダール症候群であったのではないか、という結語です。
ちなみに、冒頭の写真もCase reportからの引用ですが、72歳の男性がフィレンツェのPonte Vecchio橋でパニック発作を起こしたという症例報告でした。
…ところで、これらの文献からは、beauty parlor stroke syndrome(美容院脳卒中症候群)の名前は出てきません。
前回の美容院脳卒中症候群の文献からもスタンダールの名前は出てきません。
壁画をみるのに無理な体勢にはなりそうですが…
まだ結論は出ていないのですが椎骨脳底動脈解離は人種差があって日本人に多いのではないか、とされています(まだ結論出ていなかったと思いますが…ご存知でしたらご教授いただきたいです)
アジア人は少ないとされるスタンダール症候群と、美容院脳卒中症候群は、本当に関係あるのでしょうか…??
日本では一緒にされていますが、本当にそれでいいのかな、って少し思ってしまいました。
とはいえ、いつもと趣向の違う文献を読めて、今回は楽しかったです。